海外の廃棄物事情~タイ王国~


日本とタイのつながりはとても深く、多くの日系メーカーが進出しております。タイは経済的に大きく発展し、今やASEANの中でもトップクラスの経済国になっています。特にタイは歴史的に自動車産業を始めとした工業化が進んでおり、近年ではドローンやスマートファクトリーなど先端技術を提供する企業やスタートアップも出てきています。一方で、バンコク都心部では渋滞やそれに伴う大気汚染、バンコク以外でも工業化に伴う水質汚濁問題など環境問題の深刻化も叫ばれています。今回は、そうした環境問題のうちタイの廃棄物事情にスポットを当てて調査した内容を解説していきたいと思います。


タイの廃棄物処理の概要

廃棄物の種類

タイにおいて廃棄物は以下の4種類に分けられています。

  • 都市廃棄物(一般家庭、ホテル、飲食店、商業ビルなど)
  • 産業廃棄物(製造業などの工場、建設現場など)
  • 有害一般廃棄物(有害物質を含む家庭など)
  • 感染性廃棄物(病院、有害物質を取り扱う研究室など)


タイの廃棄物の分類は日本とは少し異なる分類となっていることが分かります。日本での産業廃棄物の考え方によると、当該廃棄物が事業活動から発生しており法に定められた20種類に該当し、その種類ごとに定められた業種から発生しているか(業種指定がないものもある)といった条件によって産業廃棄物に該当するかどうかが判断されます。そういった意味ではホテルや飲食店から発生する廃棄物は、日本では産業廃棄物となるがタイでは産業廃棄物とならないものも出てきます。


廃棄物の発生量

タイの廃棄物の発生量は都市廃棄物が2,498万トン、産業廃棄物が1,857万トン、有害廃棄物が217万トンの合計4,572万トン(2021年度)となっています。

タイでは近年、主に産業廃棄物の発生量の減少により、廃棄物の発生量が減少を続けています。主な要因は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による国内製造業の低迷や、タイ政府のIndustry4.0の推進や廃棄物管理の厳格化によるもののほか、電気電子廃棄物(WEEE)や廃プラスチックの禁輸措置が大きく影響していると言われています。


日本の廃棄物の排出量は、一般廃棄物が4,095万トン、産業廃棄物が3億7,056万トンの合計 4億1,151トン(2021年度)となっています。日本の人口はタイのおよそ1.7倍ではあるものの、廃棄物の総排出量は約9倍となるため、タイと比べると圧倒的に多いことが分かります。一般廃棄物とほぼ同じ性質である都市廃棄物のみを比べると、日本の一般廃棄物の排出量/タイの都市廃棄物の排出量=1.64となり、ほぼ人口比と一致するため、この排出量の差は主に産業廃棄物の量の違いが原因だということが分かります。(1)で述べたように、産業廃棄物の定義が日本とタイでは異なるため一概には比較できない点には注意が必要ですが、廃棄物の総量で比較した場合も前述のとおり人口比に対して廃棄物の量がかなり多いため、タイは日本と比べても一人当たりの廃棄物排出量は少ないといえます。


タイの廃棄物処理

日本での一般的な廃棄物処理のフローは排出後、破砕施設や焼却施設などの中間処理施設にて中間処理が行われ、その後再資源化されるか最終処分場に埋め立てられます。環境省の「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について」によると、日本全国の焼却施設の数は1,028施設あり、この数は国際的に見てもかなり多い数となります。日本で生活していると廃棄物を焼却処理することは当然のように思えますが、国土の広い国ではそのまま埋め立てることが多いですし、発展途上国などではそのまま埋めずに屋外に投棄、積上げするだけの「オープンダンプ」という方法が採られています。 タイでは、まさにこのオープンダンプが最も多い最終処理方法となっています。さらに正規の処理施設ではなく、基準を満たさない処理施設が大半を占めているという状況となっており、タイ全国にある廃棄物処理施設のうち、実に95%が不正な処理施設という統計も存在します(2021年)。近年、タイの廃棄物処理施設は徐々に減ってきていますが、正規の処理施設が急激に減っている一方、不正処理施設はそれほど減っておらず、相対的に不正処理施設の割合が増加しています。さらに、オープンンプの中でも管理されていない、単に屋外に廃棄物を投棄しただけというものが処理方法の大半を占めており、地下水の汚染やごみの飛散等の環境問題の原因になっているといわれています。


日本のように人口の割に国土面積の狭い国では、廃棄物の大部分は焼却され減量化されてから埋め立てられるという流れとなりますが、タイは日本の約1.4倍の国土をもつ一方、人口は日本の約0.6倍であるため、日本と比べて土地の利用に余裕があると考えられます。そのため、現時点では廃棄物を減量化したり、埋め立てて土地を有効活用するという意識がまだまだ低いのかもしれません。また、余談ですがタイでは家庭からごみを出す際、分別の必要がありません。ごみ袋の指定もないため、多くの家庭では黒いごみ袋にペットボトルや空き缶、燃えるごみなどを全てまとめて捨てています。そのため、廃棄物の分別に対する国民の意識もまだまだそれほど高くなく、それがこうした不適正処理の背景にあるとも考えられます。


直近の廃棄物関連の個別課題


電気電子廃棄物

電気電子廃棄物(WEEE)について、タイではその適正な処理を定めたWEEE法が検討されています。WEEEには鉛やカドミウムのような金属や、ポリ臭化ビフェニルなどの有害物質が数多く含まれており、適切に処理しなければ環境への悪影響や人体への健康被害などが生じる恐れがあります(天然資源環境省公害管理局によると、2016年時点で排出された有害一般廃棄物のうち、2/3がWEEEであったとされています)。そのため、タイでは2014年に初めてWEEE法案が提出、2018年と2021年にパブリックコメントが実施され、2021年内には成立となる見通しでしたが、現時点においても未だ法令として成立していません。2022年時点の情報では、未だ法案を審議する小委員会に提出されている状態で、成立までは時間がかかる見通しです。 なお、タイでのWEEE処理について、2022年度には日本の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がタイ工業省工場局とのMOUに基づき、事業委託先である株式会社アビヅとともにWEEEの一貫リサイクル施設の実証運転を開始するなど、その課題解決に向けてタイ国内で活動しています。


廃プラスチック

WEEEと同様、現在タイにおいて問題視されているのが、プラスチックごみです。2018年にタイ南部のソンクラー県に打ち上げられたゴンドウクジラの胃の中から総重量8kgに及ぶビニール袋が発見されたことからタイ国民の間にプラスチックごみ削減の機運が高まったとされ、同年、天然資源・環境省は「プラスチックごみ管理に関するロードマップ 2018-2030」を策定、公表しました。このロードマップでは、2022年までに厚さ36mm未満のレジ袋やプラスチック製ストローの全廃を目指しているとともに、2027年までにプラスチックのリサイクル率100%を達成することを目標としています。 なお、廃プラスチックの輸入については2024年12月31日までは事前に輸入許可を取得していれば輸入することが可能ですが、2025年1月1日以降は全面的に輸入禁止となる見込みです。

タイにおける主要なリサイクル施設やプロセスについて紹介します。例えば、プラスチックや紙のリサイクル工場、リサイクルプログラムなどを取り上げます。


自動車リサイクル

日本においては、2005年の「自動車リサイクル法」によって使用済み自動車をリサイクルする仕組みが確立されており、2021年度にはエアバッグの95%、シュレッダーダスト(ASR)の96~97.5%がリサイクルされています。また、製品設計の段階でも易解体性の向上や分解のための材料工夫などがなされており、自動車製造から処分までの流れの中で、一貫してリサイクルへの高い意識が存在しています。一方タイではどうかというと、自動車リサイクルの制度が存在していません(そもそもタイには自動車の登録・廃車という制度もありません)。使用できなくなった自動車は、周辺国へ売却されるか、町工場で有用な部品・金属等が抜き取られたのち、高度なリサイクル施設でないと処理できないような部分については、そのままオープンダンプにて放置されることとなります。これは自動車の生産・販売台数が多いタイで非常に問題となっており、今後内燃機関車以外の使用済み自動車が多く発生することも予想されるタイにおいては、早期に対応を検討すべき問題だといえます。 なお、WEEEと同様、NEDO事業で豊田通商のタイ子会社であるGreen Metals(Thailand)社が、敷地内に使用済み自動車の解体モデル工場を設置するなど、日本の政府機関や日系企業がタイにおける使用済み自動車の適正処理に向けた制度設計に対する協力を進めています。こうした取組がタイの使用済み自動車の適正な処理に繋がるとともに、タイ国内での日本のプレゼンス向上にも貢献していると考えられます。


まとめ

廃棄物の削減は、タイ政府が国家戦略として掲げているBCG経済においても重要な課題となっていることもあり、今後さらにスピード感をもって取組が進められることが予想されます。そのため、タイで事業を行う際には、この分野に関するタイ政府の動きは常に注視しておくべきと考えられます。
実際、最近の事例として、2023年5月31日に工場から排出される産業廃棄物の管理方法について定めた告示を廃止・改正する「工業省告示:仏暦2566年(2023年)廃物又は不用物の処理」が公布されています。この告示によって排出者責任が強化され、排出した廃棄物が適正に処理を完了するまでの責任を、廃棄物の排出者が負うことになりました。タイで既に事業を実施している事業者の皆様におかれては、これまで以上に慎重に廃棄物処理業者を選定する必要があると考えられます。今後も日系メーカーの動向に注目していきたいと思います。